B:高貴なる囚人 マネス
アラミゴの城郭の地下には、主に身分の高い国事犯を収容するための、広大な地下牢があるという噂、聞いたことがありますか?
噂によると、廃王テオドリックの治世下では、謀反を疑われた貴族たちが、数多く収監されていたとか。ですが、助けがくる前に、帝国の侵攻が始まったんです。帝国軍が地下牢の存在を知るはずもありません。かくして誰にも看取られず、獄中で死んだ囚人たちの魂が、怨霊となって現れる……そんな噂があるんですよ!
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ギラバニア、ロッホ・セル湖湖畔に設けられたエオルゼア連合軍のキャンプはアラミゴ王宮と湖を挟んで反対側に設営されていて、アラミゴ奪還前にはエオルゼア連合軍の名だたるメンバーがこの拠点に集っていたという。
ギラバニアのロッホ・セル湖湖畔にあるアラミゴ王宮はガレマール帝国のエオルゼア侵攻の本拠地になっていた。エオルゼア全土に覇権を拡げるガレマール帝国軍にエオルゼアからの撤退を決定づけた最も大きな要因と言えば、やはりエオルゼア侵攻の足掛かりとなっていたアラミゴの奪還だ。三大都市国家連合軍にイシュガルドが加わり、さらに先立ってドマ奪還に成功していた東方連合も協力し、いわばイルサバード大陸全土から反乱の狼煙が上がり事実上、大陸で孤立無援となったガレマール帝国はこの大規模な奪還作戦で完全に牙を折られ北洲ガレマルドへ退却した。
20数年前、ガレマール帝国がエオルゼア侵攻の手始めに属州として手にいれたのが山岳の都市国家アラミゴだった。
それまでにも何度かアラミゴに侵攻しようとしては国境付近で小競り合いを起しては撤退を繰り返していたガレマール帝国が最終的にアラミゴ国内の内乱を利用したことで侵略に成功したことは有名な話だ。
そもそもアラミゴはギラバニアの少数民族が第六霊災の際に洪水に追われ山岳地方に移動し集結した多民族国家なため一枚岩ではなかった。それを武力でまとめ上げ軍事国家として台頭させたのが廃王テオドリックだ。廃王とは生死を問わず、王位を追われた者をいう。暴君であったテオドリックのその恐怖政治には反発も多く、クーデターや民族的反乱などで大衆を扇動しテオドリックを失脚させようとした政治犯の出現が後を絶たなかったという。テオドリックは反乱を制圧し捕えた政治犯の多くは見せしめに公開処刑にしたが、中でも政敵や身分の高い者や処刑するまでもないような罪状の軽い者や今後何かと政治的カードとして使えそうな者をアラミゴ城郭の地下に広大な地下牢を作り収監したのだという。テオドリックはそうすることで反乱者を抑え、自身の独裁政権を安定したものにしようと試みたが頻発する反乱は一向に収まる気配がなかった。
結果としてアラミゴは、暴君への鬱積した不満をガレマール帝国に煽動、利用され、自ら滅亡への道を歩むことになった。テオドリックは王権を失い、ガレマール軍が進駐してくるころには城郭の地下にある牢獄の存在など忘れ去られ、新たな城主となったガレマール帝国軍もまた地下牢が存在することすら知らなかった。こうして志高くアラミゴを愛した反乱の国士たちは牢に捕らわれたまま、世を恨み朽ちていった。その無念たるや想像を絶するものがあったことだろう。その強い想いが邪悪なものを呼び寄せ宿らせたとか、それとも恨みで出来た心の隙に付け込まれ妖異に変異したのかは分からないが、彼らが絶命したであろうその場所で奴は生まれたようだ。アラミゴ奪還直後に地下牢は思い出され、調査が行われたがその時に存在が確認されている。その後アラミゴ奪還戦の激闘の中で地下牢の壁の一部が倒壊していたらしく、その目撃例は城外にまで広がった。なかでもとりわけ湖畔北部にある墓地アバラシアズスカルでは頻繁に目撃されている。
この墓地は地上に石碑を立てるというような形態の墓地はすくなく、天然の洞窟内に人工の玄室を造ったりして墓地として利用しているのだが、洞窟の出入り口があちらそちらに設けられているため、まるで方向音痴なあたしへの悪意のようなものを感じる。あたしたちはお互いに手を取り洞窟を進んだ。
正直、妖異とか妖魔は平気なのだが霊とか悪霊とかは二人そろって苦手だ。何がどう違うのかと聞かれても困るのだが、例えばコウロギは平気で触れるがカマドウマは絶対に触れないという感覚に近い。
岩山の山肌にぽっかり空いた墓地の入り口から洞窟に入ってもう間もなく3時間になろうとしていた。寄り添うようにして何十回目かの角を曲がる。
「!」
角を曲がって一歩踏み出したあたしは小さな声を上げてすぐに相方の手を引いて元の位置に戻った。
「いたっ!」
相方もあたしと同じように角からの覗き込むと小声で「いたっ」と言って引っ込んだ。
角の先15mほどの先をゆらゆら肩を揺らしてゆっくりと歩いている。その体高さは4~5m、手足はヒョロっと長い。全身は影を纏ったように真っ黒で、目や口など開口部から体内で燃える青い炎が見える。
「行かなきゃだめだよね?」
泣きそうな顔をして相方が聞いて来た。普段は盾役までこなす勇ましい相方が小さく見え、あたしはちょっと可哀想になって悩んだ。
「ここまで来ちゃったもんねぇ…。」
相方は小さくなって目を瞑りぶつぶつ言ったかと思うと覚悟を決たらしくフンッと鼻を鳴らして先へ進もうと回れ右した。
「えっ‥?」
あたし達は二人とも思わず声が漏れた。
そこにはあたし達を上から覗き込むようにして見ている奴が立っていた。奴の口角がゆっくり上がり、三日月のような口の中が青い炎が燃えているのが見えた。
相方の耳をつんざくような甲高く黄色い悲鳴が洞窟中に響き渡った。